ソバの特性と栽培

ソバとは、タデ科ソバ属に分類される植物。しかし植物であると同時に、われわれ人間にとっては、重要な作物である。野生植物から人間に都合がいいように少しずつ改良されてきた。われわれ日本人もソバを栽培し始めた歴史は古い。まだ文字や書物が存在しなかった頃のこと。記録が残っていないので、当時どのように栽培されていたのかは、明らかではない。日本での蕎麦の栽培に関する最初の記録は、『続日本紀』そのなかで元正天皇が養老六年(722)八月に出した詔として、「この夏は日照りが続いて農作物の育ちが良くないので、応急策としてソバを栽培させている。さてこのように、日本人とともに歩んできたともいえるソバであるが、一体どんな生育をするのだろうか。みてみることにしょう。
蕎麦は冷涼な気候を好むといわれているが、低温では生育が抑制され、25度前後になった時発芽する。種を蒔いてから発芽までの期間は、通常三日。その後は三日で一枚の葉が出て、20日足らずでつぼみがつき花が咲く。実に生育が速いのがソバの大きな特徴である。なんと約75日で収穫できる。不作時の応急策でソバが蒔かれたのも頷ける。
明治以降になり、北海道への開拓が進められるようになると、いの一番にソバが植えられた。なぜなら、早春から開墾にとりかかっても、その年のうちに播種ができ、収穫までも得られる作物はソバしかない。肥料も十分でない土地にとりあえず作物を植えて食料として、開墾助成金を得なければならない。それにはソバは最適の作物だったのだ。現在でも、北海道は、ソバの作づけ面積は、日本一。そのかげには、このような事情があったのである。ソバは土壌を選ばない。さすがに重粘度の土地では育たないが、土の質が、多少悪くても育つ。さらに肥沃な土地でなくても、砂地などのかなり乾燥した土地でも生育することができるのが特徴だ。寒さにも比較的強く、ヒマラヤ山麓の2400〜4300メートル付近で
も栽培されている。発芽のあとの霜には弱いので播種時期だけは、気をつける必要がある。
ソバには夏ソバと秋ソバがある。夏ソバ春に種を蒔き夏に収穫する。秋ソバは夏に播種して、秋に収穫する。ソバの生育は約75と短いので、同じ土地で二回収穫することもできるのだ。晩霜の心配がない高知県には、「三度蕎麦」と名づけられた品種があり、年に三回収穫することができる。秋ソバの蕎麦畑では、八月末から九月はじめにソバの花が満開になる。清楚で小さい白い花が一面に咲き乱れ、花の蜜に誘われて、ミツバチやアブが音を立てて元気よく飛び回っている。ソバは栽培時にもわれわれを楽しませてくれる。ソバの花には白く小さな花びらがあり、それに囲まれるように外側に5本、内側に3本、計8本の雄しべ。中心には、いくつかの房に分かれた雄しべがあり、蜜線もここにある。
ここまで読むと、ソバはなんと良いことづくめの作物だと思われるだろうが、欠点もある。収穫が安定しないのだ。もちろんたいていの場所でも育つことは育つ。しかし、収穫の豊凶の差が激しい。ここが昔からソバが主作物に成り得なかった所以でもある。
現在のソバの栽培における、もうひとつの欠点は、労力がかかること。ソバは縄文時代からこのかた、労力のかからない作物とされてきた。確かに生育期間は短いし、肥料もいらない。雑草を防ぐ力も持っている。しかしこの手がかからないことが却って、機械化を促進させなかった。ほかの作物がほとんど機械化されたのに対して、ソバの栽培は今でもその大半が手作業で行われている。これからの国産ソバの安定供給には、品種改良と機械化が急務といっていい。蕎麦はこれからも是非とも日本に残して行きたい大切な食文化。
蕎麦が好きなら食べるだけでなく、ソバの畑も見に行きたい。できれば一度は、栽培もしてみると蕎麦の有り難みがわかり、いっそう蕎麦が美味しくなる。