変わりそば十二ヶ月

 変わりそばは、誰がみても変わっているそば、都会人から見ると物珍しく見える各地の郷土そばは、あるいは商売熱心な店で考えだした創作そば、材用に特異なものを使ったそばなどの総称です。ここでは、一月から十二月まで、その時季時季の季節感をそば切りにもり込んだものを紹介しましょう。
 練り込む材料によって、色、香りがちがいます。何を練り込むかのきまりというものもありません。以下は、私の店での「そば会」に出したものです。そのうちの代表的な五品をせいろに盛って供するのが「五色そば」です。変わりそばのたべ方ですが、変わりそばは混入する物の香りや味を大切にするものですから、以下、特にことわっていないかぎり「もり」で味わって下さい。またつなぎの量ですが、これは各自の好みにまかせましょう。自信のある方は二八などでどうぞ。

・一月―みかん切り
 みかんをつぶしてそばに打ち込んでつくるもの。まず、みかんの果肉を取り出しておく。果皮はおろしがねでおろす。下ろした果皮と果肉を水といっしょにそば粉に混ぜ合わせて練る。その際、皮を入れすぎると苦味が出るのでご注意!あとは、一般のそば切りの要領でそばを打ってゆでます。「かけそば」でいただくのがふつうです。
 
・二月―磯切り
 浅草のりをもみ込んでそばを打つもの。そば粉とつなぎ粉を合わせた中に、のりを包丁でなるべく細かく刻んで入れる。あとはふつうのそば切りと同じです。もう一つの方法として、あらかじめ水にのりをとかあし入れておいてから粉に混ぜるということもします。どちらでもかまいません。
 
・三月―草切り
草といっても、よもぎのこと。餅では一般的ですが、そばでも春を呼ぶ香りを楽しめます。入れるよもぎは、さっとゆでてアクを抜いてもよいし、生のまま刻んで用いてもよい。
 後者のほうが香りは強い。
 
・四月―木の芽切り
 
木の芽田楽や、日本料理の口取りや付出しでおなじみの山椒の若芽をもみ込んだもの。木の芽を細かくみじん切りにしてそばに混ぜこんで打ちます。ただ、木の芽の香りはとても強いことを忘れてはいけません。入れすぎるとそばの風味を殺してしまうから注意しましよう。

・五月―茶そば切り
数ある変わりそばのなかでも特によく使われるものの一つです。五月の新茶の時期に打ちますが、茶の若芽そのままを入れるのではなく、抹茶を使います。
茶そば切りでは、香りはもちろんですが、いちばんたいせつなのは色合いです。抹茶入れすぎると色がつきすぎて、食べる人に不快感を与えることもあります。また、茶そばはゆでる前よりもゆでた後のほうが色が強くうき出ます。そこでそばに抹茶を入れるときは、少し色がうすいかなと思うくらいにしておくほうがよいでしょう。いかにも食欲をそそる、あのやさしい緑色を出すことがポイントです。
こうしてできた茶そば切りは、そのものをいただくのもけっこうですが、料理の添え物として食卓をかざるのにも、きっと一役かってくれると思います

・六月―けし切り。
 あんぱんのへそのところにおかれているあの消しの実をそばにいれたもの。けしの実は、麻薬との関係で栽培するのは何かと規制があるようですが、市販されていますから入手は簡単です。けしの実は、炒ってすり鉢ですってから練りこむのが一般的です。
 
・七月―ごま切り
 市販の炒りごまでもけっこうですがせっかく変わりそばをつくろうというあなたなら、生の黒ごまをほどよく炒って使いましょう。すり鉢でよくすりつぶしてからそばに入れます。これも茶そば同様に入れすぎないことが肝心です。味がくどくなるからです。
 
・八月―葛切り
 葛のデンプン(一般には、じゃがいもデンプンや小麦粉デンプンで代用)をそばに混ぜて打ったもの。人それぞれに好みもありましょうが、あまりうまいものではありません。しかし、いちどためしにやってみてはいかがでしょう。一工夫できるかもしれません。
 
・九月―菊切り
食用菊の黄花をすり鉢ですり、それをそば粉にまぜ込んでそばを打ったもの食用菊は、野生の菊を料理用に改良栽培したもので、黄菊が秋を運んでくれます。

・十月―芋切
一口に芋といってもいろいろですが、ここでは伊勢芋(やまのいも系統ならほかのものでも)を使います。伊勢芋はそばのつなぎによく使われることは、前にも述べました。
芋を混ぜると、そば切りはつくりやすくなりますので、"芋切り”にかぎっては、そば粉を多くしてつなぎ粉をへらしてもよいでしょう。そばの面もなめらかになるので、特に女性の方にぜひ一度ご賞味いただきたい品の一つです。

・十一月―わさび切り
 ツンと鼻をつくわさびはそばの薬味として昔から好まれていますが、これはそば自体にわさびを混ぜてそのまま打ったものですから、薬味とは違った格別の風味を感じさせてくれます。わさびは生わさびを使用したいところですが、量からいっても値段の面からいっても、ちょっとたいへんなので、粉わさびを代用すればよいと思います。またわさびの茎をみじん切り、すり鉢ですりおろして混ぜることもできます。
 
・十二月―ゆず切り
ゆずの皮をおろし金ですりおろしたものを水にとかしてそばに入れるもの。ご承知のとおり、ゆずの香りは少量でよさを発揮するものです。これを入れすぎると苦味が強くなるばかりか、そば汁にも影響するので、特に注意してください。
ここにご紹介したのは変わりそばのほんの一部ですが、家庭で思いつくまま気のむくままに新しい変わりそばをつくるのもおもしろいと思います。子共向きに卵を入れたり、お父さん用には、いわし切りもいけるかもしれない。お母さんにはレモンを入れてみようなどというこころみはいかがなものでしょうか。